「……さっきも言ったけど。もし、俺と肉体関係結んでしまえば、あいつの正式な、嫁にはなれないよ……雪風」

 無理に歩かされる私の前に広がる緑茂る森は、もうすぐそこだ。焦げ茶色の丸い目の奥は、昏い。

「やめて……私はっ……」

 泣きそうになりながら腕の中で藻掻くけど、彼との力の差は埋めがたい。

「か弱い雪女なのに、猫又の俺から逃げられると思ってるの? 無理だから、諦めなよ」

「僕の妻から手を、離してくれないか。すぐにでも、殺してしまいそうなんだ。朝体調が悪そうだったから、心配して帰って来て良かったよ」