日曜日の朝、スマホを確認すると『パラドックスな恋』は更新されていた。
これまでは少しずつの更新だったのに、一気に第五章の途中まで公開されている。
□□□□□□
「危ない!」
横断歩道に足を踏み入れた大雅の手を必死で引っ張る。
ブブブブブ!
すごい音にふり返ると、大きな車が私たちを襲おうとしていた。
とっさに大雅を突き飛ばすと同時に、腰のあたりにひどい痛みが生まれた。
あっけなく転がる自分の体がアスファルトにたたきつけられる。歩道でしりもちをついた大雅が大きく目を見開いていた。
……よかった。大雅が無事でよかった。
目を閉じれば、痛みはすっと遠ざかり、抗えない眠気が私を襲った。
(つづく)
□□□□□□
これは、主人公が小学三年生のときに大雅をかばって事故に遭ったときの場面だ。
文字で見ると、忘れていた小説の内容が一気に思い出せた。
ベッドに仰向けになり、ぼんやりと考える。
このあと、逆に私が事故に遭いそうになるのを大雅が助けてくれるんだ。
その先はまだぼやけていて思い出せないけれど、これで全体的な流れが把握できた。
これほどまでに現実と違う流れなら、事故だって起きない気がする。
……そもそも、今日大雅はアメリカに経つそうだし、もうこの町にいないかもしれない。
カーテンのすき間から曇り空が見える。
台風でも来るのか、灰色の雲が形を変えながら流れていく。
日葵は今ごろ落ちこんでいるのかな。
夕焼け公園での日葵を思い出すと、胸が締めつけられる。
やっと好きな人ができた日葵に、これから先どんな未来が待っているのだろう。
私だって同じだ。優太に恋をするなんて、ありえないことだと思っていた。
気づいたら心に優太がいて、想いは栄養分もないのに勝手に育っていった。
ううん、今も毎日育っている。
違う、これは言い訳だ。ぜんぶ、私が選択したことなんだよね。
今日、大雅がいなくなることで物語は終わりを迎えるのだろうか。
待っているだけじゃダメな気がした。
着替えてから一階におりると、お母さんがぼんやりソファに座っていた。
私に気づいたお母さんがなにか言いたげに口を開き、そして閉じた。
昨日も一日、ろくに話もしなかった。お父さんも帰って来る気配はない。
いびつに家族の形はゆがんでしまったけれど、不思議と悲しみは消えている。
気持ちをきちんと伝えられたからなのか、あきらめの心境なのかはわからないけれど、すっきりしているのが不思議だった。
「ちょっと出かけてくるね」
「あ、うん。気をつけて行ってらっしゃい」
どこか気弱そうに見えるお母さんに、「あの」と勇気を出した。
「こないだはヘンなこと言ってごめんね」
「なに言ってるのよ。ぜんぜんヘンなことじゃないわよ」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ぎこちないまま外に出ると、今にも雨が降りそうな空が私を見おろしている。
カサを手に歩き出すと、秋の風が私に抵抗するように吹きつけてきた。
これまでは少しずつの更新だったのに、一気に第五章の途中まで公開されている。
□□□□□□
「危ない!」
横断歩道に足を踏み入れた大雅の手を必死で引っ張る。
ブブブブブ!
すごい音にふり返ると、大きな車が私たちを襲おうとしていた。
とっさに大雅を突き飛ばすと同時に、腰のあたりにひどい痛みが生まれた。
あっけなく転がる自分の体がアスファルトにたたきつけられる。歩道でしりもちをついた大雅が大きく目を見開いていた。
……よかった。大雅が無事でよかった。
目を閉じれば、痛みはすっと遠ざかり、抗えない眠気が私を襲った。
(つづく)
□□□□□□
これは、主人公が小学三年生のときに大雅をかばって事故に遭ったときの場面だ。
文字で見ると、忘れていた小説の内容が一気に思い出せた。
ベッドに仰向けになり、ぼんやりと考える。
このあと、逆に私が事故に遭いそうになるのを大雅が助けてくれるんだ。
その先はまだぼやけていて思い出せないけれど、これで全体的な流れが把握できた。
これほどまでに現実と違う流れなら、事故だって起きない気がする。
……そもそも、今日大雅はアメリカに経つそうだし、もうこの町にいないかもしれない。
カーテンのすき間から曇り空が見える。
台風でも来るのか、灰色の雲が形を変えながら流れていく。
日葵は今ごろ落ちこんでいるのかな。
夕焼け公園での日葵を思い出すと、胸が締めつけられる。
やっと好きな人ができた日葵に、これから先どんな未来が待っているのだろう。
私だって同じだ。優太に恋をするなんて、ありえないことだと思っていた。
気づいたら心に優太がいて、想いは栄養分もないのに勝手に育っていった。
ううん、今も毎日育っている。
違う、これは言い訳だ。ぜんぶ、私が選択したことなんだよね。
今日、大雅がいなくなることで物語は終わりを迎えるのだろうか。
待っているだけじゃダメな気がした。
着替えてから一階におりると、お母さんがぼんやりソファに座っていた。
私に気づいたお母さんがなにか言いたげに口を開き、そして閉じた。
昨日も一日、ろくに話もしなかった。お父さんも帰って来る気配はない。
いびつに家族の形はゆがんでしまったけれど、不思議と悲しみは消えている。
気持ちをきちんと伝えられたからなのか、あきらめの心境なのかはわからないけれど、すっきりしているのが不思議だった。
「ちょっと出かけてくるね」
「あ、うん。気をつけて行ってらっしゃい」
どこか気弱そうに見えるお母さんに、「あの」と勇気を出した。
「こないだはヘンなこと言ってごめんね」
「なに言ってるのよ。ぜんぜんヘンなことじゃないわよ」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ぎこちないまま外に出ると、今にも雨が降りそうな空が私を見おろしている。
カサを手に歩き出すと、秋の風が私に抵抗するように吹きつけてきた。