二学期がはじまると同時に、夏のにおいはどこかへ消えてしまったみたい。

 朝というのにすでに暑く、登校中はセミの鳴き声もまだ聞こえている。
 それでも、体にまとわいついていた夏が体からはがれてしまった感じがした。
 教室に入ると、久しぶりに会うクラスメイトに勝手に笑顔になってしまう。

悠花(はるか)、久しぶり!」「またかわいくなったんじゃない?」「あー、悠花に会いたかったよ~」

 私も会いたかったよ。
 やっぱり教室に入るとテンションがあがってしまう。
 手を取り合ったり、スマホで写真を撮ったりしながら窓側の席にたどり着く。

 ああ、今日もすごくいい天気。
 一か月ぶりに見る四角く切り取られた青空、遠くに見える山の風景がなつかしい。まるで風景が今日という日を応援してくれているみたい。

「悠花、おはよう」

 前の席の茉莉(まり)が、椅子ごとうしろ向きになって言った。
 最近伸ばしているという髪は、肩にかかりそうなほど長くなっている。
 茉莉のうらやましいところは、日焼け止めを塗っていない割に、昔から白い肌をキープし続けているところだ。私なんて、SPF50の日焼け止めを重ね塗りしまくっているというのに。

「なんか久しぶりに会う気がするよねー」

 髪を耳にかけながら茉莉はうれしそうに言った。

「久しぶりじゃないよ。昨日一瞬だけ会ったよね?」

 窓を開けるとやわらかい風が鼻をくすぐった。
 やっぱりもう季節は秋に傾いている。
 見ると、茉莉は心外とでも言いたそうに眉をひそめている。

「会ったって言っても交差点のところで一瞬だけでしょ。そもそも、悠花は車に乗ってたし。悠花のおじさん、あたしの名前を大声て呼ぶのやめてくれないかな。めっちゃ恥ずかしかったんだから」

 茉莉とは昔から家が近所。つまり、幼ななじみってやつだ。
 幼稚園のころからよく知っているけれど、まさか高校まで同じになるとは思わなかった。

 この辺りは田舎だし、クラスメイトには小学生時代から知っている子もちらほらといる。

「夏休み最後の日は家族で外食って決まってるからね」

 昨日は数か月ぶりに焼き肉を食べに行った。
 いくら髪に匂いがついたとしても、あのおいしさにはかなわない。
 お母さんなんて、ご飯をお代わりまでしてたし。

「悠花んとこは家族仲よすぎ。うちなんてろくに会話もしないのにさ」
「そうかな。普通だと思うけど」
「ぜんぜん普通じゃないって。悠花ん家を見てると、外国のホームドラマを見ている気分になるもん」

 そこまで言ってから茉莉は「違うな」と眉をひそめた。

「おじさんやおばさんはホームドラマだけど、悠花は学園ドラマの絶対的主役って感じ」
「私が主役? ないない」

 脇役のひとりならわかるけど、主役はさすがに言いすぎだ。
 手を横に振ると、茉莉はずいと顔を近づけてきた。

「前から言ってるけどさ、悠花はめっちゃかわいいしキラキラしてるんだからね。そこを認めないのはずるいよ」

 ずるいと言われても困ってしまう。
 私からすれば茉莉だってかわいいし、ほかの子だってみんなそう。けれど、否定しても茉莉は決して許してくれない。
 長年のつき合いだからわかること。

「ありがと」

 これが正解の返答だということは、長年の経験で身に染みている。
 方眉をあげたまま、茉莉はゆっくりうなずいた。
 コミカルな仕草もかわいいって伝えたいけれど、今は話題を変えるほうが先だ。