大雅の顔や肩、腕から力が抜けていくのがわかる。
唇をかみしめた大雅が何度も首を横に振り、そして疲れたように目を閉じた。
やっぱりそうなんだ……。
「どう、して、わかったの?」
区切った言葉のあと、大雅は窓の外に目を向けている。
「どうしてだろう。記憶が戻った瞬間、体ぜんぶで理解した感じがする。大雅は私の記憶を戻しに来てくれた。それは、もうすぐ自分がいなくなるからだ、って……」
きっと、茉莉や伸佳は、大雅の病気のことは知らないだろう。
昔から大雅はこっそりと大きな計画を実行するようなところがあったから。
記憶の戻らない私に、大雅は計画を変更した。
ふたりの新しい思い出を作ることからはじめたんだ。
茉莉や伸佳もそれに倣って、昔の話をしなくなった。
おばさんや知登世ちゃんも協力をしているのだろう。
こんな大きな計画に協力するのなら、その原因も大きなこと。
それは、大雅の残り時間が少ないということ……。
「さすがだね。悠花は、人の本音がわかっちゃうところがあったからね」
うなずく大雅に私は今にも泣いてしまいそう。
「自分の人生の残り時間を知ったときはショックだった。毎日泣いたし、神様を恨んだりもした。でも、もう一度神様がチャンスをくれたんだって思えるようになったんだ」
そう言うと、大雅は迷うように私を見た。
「悠花のことが気がかりだった。それだけじゃない、離れてもずっと心配だったんだ」
「大雅は……なんの病気なの?」
「血液の病気なんだって。今の日本では治すことができないんだ」
なんでもないような口調で言うけれど、大雅はずっと苦しんできたんだよね。
「でもね、すごいことが起きたんだ。母さんが、僕の病気を専門に研究している名医に話をつけてね。それでアメリカに行くことになったんだよ」
泣いちゃダメだと思っても……やっぱりできなかった。
ボロボロと涙をこぼしたまま、私はうなずく。
「すごい……。じゃあ、本当のさよならじゃないんだね」
この壮大な大雅の計画の結末は、バッドエンドかもしれないと怯えていた。
「もちろん治る保障なんてないよ。でも、僕は悠花の記憶を戻せて満足しているんだ」
「大丈夫だよ。絶対に治るよ」
「そうだね」と大雅はほほ笑んだ。
「この間悠花を助けたときに、空の彼方に雨星を見た気がするんだ。神様が悠花の記憶を戻して、僕の命を救ってくれる……そう思えるようになった」
はあはあと息を吐きながら、これ以上泣かないように涙をこらえる。
雨星の意味はまだわからないけれど、大雅が言うならそんな気がしたから。
「そうだよ。きっと雨星がかなえてくれるんだよ。だから、私も信じる。大雅が戻ってくるまで待ってる」
そう言うと大雅はおかしそうに笑った。
「雨星のこと、まだわからないくせに」
「わからなくても信じるって決めたから。どっちにしても大雅は教えてくれないんでしょう?」
「戻ってこられたなら教えるよ」
私の好きな笑顔が目の前に咲いている。
きっと大丈夫だって、そう思えた。
私があの日、大雅と同じように雨星を見たかもしれないことは、内緒にしておこう。
「悠花こそ、旅立つ前に告白の返事を聞かせてよ」
「それも元気に戻ってきたときにね。あまり早く答えると安心しちゃいそうだから」
「ひどい」
私たちは一緒にクスクス笑った。
それから、私の提案で茉莉と伸佳も呼び出した。
思い出話は尽きず、看護師さんに怒られるまで続けた。
――きっと大丈夫。
見あげた空は、遠く離れた場所で戦う大雅につながっているから。
雨星は、大雅に奇跡を起こしてくれる。
その日までうつむかずに私は生きていこう。
いつかまた会える、その日まで。
唇をかみしめた大雅が何度も首を横に振り、そして疲れたように目を閉じた。
やっぱりそうなんだ……。
「どう、して、わかったの?」
区切った言葉のあと、大雅は窓の外に目を向けている。
「どうしてだろう。記憶が戻った瞬間、体ぜんぶで理解した感じがする。大雅は私の記憶を戻しに来てくれた。それは、もうすぐ自分がいなくなるからだ、って……」
きっと、茉莉や伸佳は、大雅の病気のことは知らないだろう。
昔から大雅はこっそりと大きな計画を実行するようなところがあったから。
記憶の戻らない私に、大雅は計画を変更した。
ふたりの新しい思い出を作ることからはじめたんだ。
茉莉や伸佳もそれに倣って、昔の話をしなくなった。
おばさんや知登世ちゃんも協力をしているのだろう。
こんな大きな計画に協力するのなら、その原因も大きなこと。
それは、大雅の残り時間が少ないということ……。
「さすがだね。悠花は、人の本音がわかっちゃうところがあったからね」
うなずく大雅に私は今にも泣いてしまいそう。
「自分の人生の残り時間を知ったときはショックだった。毎日泣いたし、神様を恨んだりもした。でも、もう一度神様がチャンスをくれたんだって思えるようになったんだ」
そう言うと、大雅は迷うように私を見た。
「悠花のことが気がかりだった。それだけじゃない、離れてもずっと心配だったんだ」
「大雅は……なんの病気なの?」
「血液の病気なんだって。今の日本では治すことができないんだ」
なんでもないような口調で言うけれど、大雅はずっと苦しんできたんだよね。
「でもね、すごいことが起きたんだ。母さんが、僕の病気を専門に研究している名医に話をつけてね。それでアメリカに行くことになったんだよ」
泣いちゃダメだと思っても……やっぱりできなかった。
ボロボロと涙をこぼしたまま、私はうなずく。
「すごい……。じゃあ、本当のさよならじゃないんだね」
この壮大な大雅の計画の結末は、バッドエンドかもしれないと怯えていた。
「もちろん治る保障なんてないよ。でも、僕は悠花の記憶を戻せて満足しているんだ」
「大丈夫だよ。絶対に治るよ」
「そうだね」と大雅はほほ笑んだ。
「この間悠花を助けたときに、空の彼方に雨星を見た気がするんだ。神様が悠花の記憶を戻して、僕の命を救ってくれる……そう思えるようになった」
はあはあと息を吐きながら、これ以上泣かないように涙をこらえる。
雨星の意味はまだわからないけれど、大雅が言うならそんな気がしたから。
「そうだよ。きっと雨星がかなえてくれるんだよ。だから、私も信じる。大雅が戻ってくるまで待ってる」
そう言うと大雅はおかしそうに笑った。
「雨星のこと、まだわからないくせに」
「わからなくても信じるって決めたから。どっちにしても大雅は教えてくれないんでしょう?」
「戻ってこられたなら教えるよ」
私の好きな笑顔が目の前に咲いている。
きっと大丈夫だって、そう思えた。
私があの日、大雅と同じように雨星を見たかもしれないことは、内緒にしておこう。
「悠花こそ、旅立つ前に告白の返事を聞かせてよ」
「それも元気に戻ってきたときにね。あまり早く答えると安心しちゃいそうだから」
「ひどい」
私たちは一緒にクスクス笑った。
それから、私の提案で茉莉と伸佳も呼び出した。
思い出話は尽きず、看護師さんに怒られるまで続けた。
――きっと大丈夫。
見あげた空は、遠く離れた場所で戦う大雅につながっているから。
雨星は、大雅に奇跡を起こしてくれる。
その日までうつむかずに私は生きていこう。
いつかまた会える、その日まで。