夕焼け公園に人の姿はなく、閑散としていた。

「うわ、めっちゃ久々に来たわ」

 テンションのあがる伸佳を置いて、私はいつものベンチに茉莉と座った。
 午後の太陽は傾きを大きくし、いつもならあと少しで夕焼けが空に広がるのだろう。けれど、上空には厚い黒雲が覆っている。
 ふいに雨星のことを思い出した。

「雨星が降る日に奇跡が起きるんだよ」

 そっとつぶやくと、隣の茉莉がビクッと体を震わせた。
 雨星は、大雅の作った言葉だと聞いた。
 私たちはここに座って、よく雨星を探していたとも聞いた。ひょっとしたら、あの本をよく読んでいたのも、この場所でのことかもしれない。
 空に目をやると、太陽から生まれた赤い光がにじんで広がっていく。

 こんな不安定な天気でも夕焼けって出るんだな……。

 伸佳はどうしたのだろう、とあたりを見ると、木にもたれかかって駅前あたりをぼんやり眺めている。
 隣の茉莉も同じように……。

 ――なにかを見つけて走り出す背中。

 ――揺れるランドセル。

「あ……」

 気づけば立ちあがっていた。

「悠花?」
「あの日もこんな天気だった。夕焼けが出ているのに空には雲が覆っていて……そう、雨が降り出したの」

 学校帰り、ここで大雅と座っていた。そのときに、彼が突然叫んだんだ。
『雨星だ!』って。
 なんのことかわからずに私は追いかけて、それから……。

 ズキンと頭がきしんだ。
 頭痛が最後の砦のように立ちふさがっている。
 それでも、私は――思い出したい!

「私、行かなくちゃ」

 駅前に行けばなにかがわかるはず。
 きっと、大雅を案内した場所あたりだ。
 歩き出そうとする私の前に、伸佳が立ちふさがった。
 反対するのかと思ったら、私と同じ方向に歩き出す。反対側には茉莉もいる。

「『私』、じゃなくて『俺たち』な。みんなで行かないと」
「そうそう。あたしだって仲間なんだからね」

 軽い口調だけれど、決心にも似た思いがあるのが伝わってくる。
 きっと、核心に近いところまで来ているんだ。

「ありがとう。みんなで行こう」

 そう言うと同時に、空から雨が降り出した。