――夢を見た。

 夢のなか、私は夕焼け公園で大雅と夕日を見ていた。
 あまりにも赤くて大きい夕日は、私たちの影を長くひとつにしている。
 声をかけると消えてしまいそうで、私は横顔をこっそり盗み見た。

 よく見ると大雅の視線は夕日じゃなく、眼下にある町にあった。町案内でふたり歩いた交差点あたりを懐かしそうに見ている。

 ふと、頭のなかに大雅のおばさんの顔が浮かんだ。
 おばさんは泣いていた。必死で私に謝っている。これは……この間のことじゃない、もっと昔の話だ。
 おばさんはなにを謝っているんだろう。

 大丈夫だよ、私は平気。
 それより大雅と離れてしまうのがつらいの。

 勝手にあふれてくる涙が世界を溶かしていく。
 隣の大雅の姿もうまく見えないよ。

「悠花、こっちだよ」

 私の名前を呼ぶやわらかい声。
 気づくとさっき大雅が眺めていた駅近くの歩道にいた。
 なつかしい店がいくつもある。
 大雅は私に構わず歩いて行く。私はうしろを必死で追う。
 ああ、この風景を遠い昔にも見たことがある。
 大雅の足は速すぎて追いつけない。
 もっとそばにいたいのに、大雅が見えなくなっていく。

 行かないで。行かないで。

 手を伸ばしても大雅は離れて行ってしまう。もう影も見えない。

 お願い、置いて行かないで。大雅!


「あ……」

 声を出すと同時に、ぐんと体が浮きあがった気がした。
 目の前には、見慣れた天井がある。
 あんなに必死で走ったの息も切れていない。

 ああ、やっぱり夢だったんだ……。

 ゆっくりベッドに起きあがると、体の節々は痛いけれど、熱はもうなさそう。
 すごくリアルな夢だったな……。
 スマホのカレンダーはあの日から二日経ったことを表示している。
 今日は日曜日。大雅はもうこの町にいないことになる。
 記憶は不思議だ。
 大雅に再会するまでは、昔の記憶がないことはそれほど気にならなかった。
 幼いころは誰だってそういうものだと思っていたし、忘れていたって現在の生活には関係がない、って。

 でも、今は違う。

 私は……私は、自分のために強くなりたい。ちゃんと思い出したい。
 スマホのLINEを開き、迷うことなくメッセージを送った。