ここは私が空想している妄想の世界なのだから、この家の中に私以外誰もいないことは分かっている。それなのに何者かが、ひたひたと迫ってくるようなイメージが脳裏を掠め、まさに後をつけられている気がしてならなくなってしまった。

 恐らくは、自分の足音がやけに鮮明に聞こえるようだと感じた時から、とうに私の冷静さは失われ始めていたのだろう。怖さが一気に爆発したみたいに、私は慄き怯えた。

 私は怖かった。心の底から、恐怖していた。

 全身から、嫌な汗が噴き出すのを感じた。
 こんなところから早く出てしまいたかった。
 すぐにでも、こんなことは止めてしまいたい。

 でも、そんなことは出来ないのだ。途中放棄は、絶対にしてはいけない。何故なら私は、玄関まで【時計回り】に真っ直ぐ進み続けなければいけないのだから。

 この家は、どこまでも人の気配を感じない場所だった。薄暗い森だけが静止画のように窓の向こうに広がっていて、己の妄想とは思えないほど鮮明であるのに違和感を覚えた。