骨ばった長い手が、鞭のように動いて【彼女】を捉える。剛毛から覗いた瞼のない眼球が一周し、ぎょろりと私を向いたのが見えた。


「こんこん」


 叫ぶように開かれた女の口から、ひっそりと響くような扉のノック音がこぼれ落ちた。

 ぼきり、と鈍い音が上がった時、私は無我夢中で玄関から逃げ出していた。ああ、許してくれと思いながら四肢を振り乱して必死に走った。

 私は恐怖のあまり、現実とは思えない恐ろしい殺人の光景に気が狂いそうになった。覚えたままでいたら発狂してしまう。

 そうして、私は大切だった幼馴染の女の子の死の瞬間を忘れた。


 その翌日に私は、彼女が行方不明になっているという知らせを受けたのだった。

             ◆◆◆

 彼女がいなくなってすぐ、一人目の友人が事故死した。首が捻じれて半ば切断しかけていただけでなく、彼は走ることが自慢だった両足を電車でキレイに失っていた。

 大人びた口調で小難しいことをよく話していた【彼】は、あの時持っていた本を永遠に読み終わらぬまま『不慮の事故』に巻き込まれて死んだ。乗車していた家族は助かったけれど、彼は不運にもぶつかってきたトラックの建築材に貫かれて、首も捻じり折れてしまっていた。