確か、霊感テストをやろうよと、そう声を掛けてきた子供がいたのだ。

 隼巳が自分で仕入れた話ではない。そもそも彼に、その話を持ちかけた別の子供がいたのだ。そう思い出しかけた私の目の前で、麦わら帽子で目元が隠れているその子供が、不意ににたりとした大きな笑みを浮かべた。

「ねぇ、おじさん。荷物をどうしたんだい?」

 まるで悪戯を楽しむかのように、ニタニタとそう問われた。

「荷物……?」

 私は数秒遅れて、自分が腕時計以外、背広の一つさえ持っていないことに気付いた。少し皺の入った白いシャツに、スラックスのズボン。ポケットには財布も鍵も入っていない。乗り継いでの出先だというのに、荷物を何も持っていないなんておかしな話だ。

 新幹線に乗り、タクシーに揺られ……と、出来事を順序立てて思い返した。けれど私は、時間ごとに出来事を並べられないと気付いて、不意に自分の記憶に疑いを覚えた。

 順を追ってココまで来た、という実感が込み上げないでいる。まるでそんな事など経験していないかのように、それらの出来事がうまく記憶に結びつかず、体験したという感覚として身体や脳に残されていない気がした。

 そもそも、私は学校の教師などしていただろうか?