そう訊き返された。一体どうしてそんなことを訊くのだろう、と彼女の目は語っていて、その問いかけてくる声がどこか遠くになった。

 ショルダーバックを肩に掛けた彼女の背は、ぴんと伸びていて、白い項には傾いた日差しが当たっていた。ミサナがきょとんとして、続けてこう尋ねてくる。

「イナハタさん? 大丈夫ですか?」

 彼女は、なんでもないことだとでも言うように、少女みたいな表情で小首を傾げた。私はその様子に、どこか情報が不一致するような違和感を覚えた。
 
 ひどく現実感がない。
 まるで、フィルター越しの映像のようだと思えた。

 その時、子供の笑い声が私の耳に入った。

 振り返りざま、視界の端に麦わら帽子を深くかぶった男の子が映った。あ、と思った時には、私はその子とぶつかってしまっていた。

 危うく転倒しかけた私の前で立ち止まって、その子供が麦わら帽子から小さな顎と口許を覗かせて、悪びれもなく「ごめんよ」と言って見上げてきた。それを正面から目に留めた私は、彼を幼い日に見たことがあるような気がして、途端に落ち着かなくなった。