「なんだか緊張しますね。父さんの故郷に来たのは初めてです」

 ミサナは、印刷してきた持参の地図を見ながら、恐る恐るといった様子で辺りを見回しながら足を進めてそう口にする。

 ぼんやりとその言葉を聞いていた私は、ふと遅れて違和感を覚えた。

 ここが、彼の故郷?
 彼女は、一体何を言っているのだろう。

 だって隼巳の故郷であるというのなら、私の故郷であるということになってしまう。けれどここには見慣れた川もなければ、橋もなく、先程通ってきた町だって、古い時代の信号機が二、三個並んだ幅の狭い道路が細く続いていただけだ。

 私の故郷に、このようなひどい湿気を含んだ、生温い空気が満ちた鬱蒼とした樹林は存在していなかった。私にとって、ここに見覚えのある風景は一つだってない。

「隼巳の産まれは、ここなのか……?」

 私が訝って尋ねると、彼女が困惑した顔でこちらを振り返ってきた。

「故郷だから土地勘はあると言っていましたし、だからそれもあって付き合ってくれることにしたんじゃなかったんですか?」