それからタクシーは、畑や荒れ地の間にぽつりぽつりと家があるだけの寂れた場所に入った。

 しばらくすると人の気配もなくなって、更に奥へと進んだ先で停まった。そこには、両側を高い木々に覆われた一本の古い道路の入り口があった。


 どうやら樹林へと入るこの先からが、『柏沼津』だという。料金を払ってタクシーを見送った後、ミサナが道の奥に向かって歩き出した。

 近くを見渡す限り、鬱蒼と茂る森で道路の脇には落ち葉が溜まっていた。私達以外に人の気配はない。

 ふと、カラスが警戒するような声を発して、空を横切って行った。私は幼かったあの日、公園から解散することになった時も、それが遠くから聞こえていたことを思い出した。

 幼い彼女の白い項は、今にも折れてしまいそうなほど細かったのを覚えている。
 あの白いワンピースからは、小さな背中と鎖骨が覗いていた。いつも私のシャツを掴んでいた手は小さくて、遠慮がちにそっと掴む様子は心細そうだった。