目を向けてみると、運転席に座っている初老の男が、垂れた小さな瞳を重たげに持ち上げて、サイドミラー越しに目を合わせてきた。

「俺もね、オカルトやら心霊やらはよく分からないけど、『よく分からないこと』だからこそ迂闊に手を出すのはやめた方がいい。日本のホラー映画、見たことあるだろう? あんな風になっちまったら、たまらないよ」
「おじさんの言い分だと、信じているようにも聞こえるわ」

 ミサナが、隼巳譲りの好奇心が覗く目を向けてそう言った。すると老人は、肉付きの悪い肩を竦めて「どちらでもないさ」と言ってきた。

「けど不審死なんかあるとさ、そうなのかなぁとか思っちまう程度には警戒するよ。テレビでもよく、そういう科学では証明が出来ないやつとかやっているだろ? 陰陽師とか坊さんとか霊媒師がいるのを考えると、やっぱりそういうのもあるんじゃないかなと信じちまいそうになるし、それにほら、こんな言葉があるだろう」

 語れぬモノについては、口を閉ざさなければならない。

 そう言葉を続けて、初老の男がニタリと目を細めた。

 私は、笑えない冗談だと思った。