「私、正直言うと、父さん達がそれをやったことが信じられないです。当時、一人だけ『何か見た』と怯えていたとは聞いたのですが、他は誰も何も見なかったんですか?」
「あの後も何度か話が出たが、私も隼巳もいなくなってしまった【彼女】も、特には何も」


――けれど、何か見たような気がする。もしくは、何かがあったような…………。


 ふと、私はそんな事を思ってしまい、小さな違和感を覚えた。

 まるで思考に霞がかかったような、よく思い出せない感じのせいだろうか。どうしてか始めから、自分が何か重要なことを履き間違えたまま推測をしているような気がする。

「なぁミサナ。君は、隼巳――お父さんが不審な死を迎えて、わざわざ調べて、静岡にある私が勤める専門学校まで連絡を寄こしてきたんだったね?」
「はい。……あの、先日は突然学校に電話してしまって、ほんとすみませんでした」
「いや、別にそれは構わないのだが。なんというかだな、随分昔にやったあの霊感テストが、その不審死に関係しているとすぐ考えるのも、少々早急すぎるような気がして」


「それでも、あなたは『私』のもとに来てくれたじゃないですか」


 唐突にそう断言されて、何故か背筋がゾクリと冷えた。

 そう告げたミサナの黒い瞳から、一瞬、感情がごっそり抜け落ちたような気がした。けれど怖いナニかに捉えられているという緊張は、彼女が「だって」と唇を尖らせたことで消えた。