「三時四十分、か」

 新幹線の速度が落ちて行くのを感じた頃、私は到着を察して腕時計でもう一度時刻を確認した。完全に停車して降りたところで、歩きながらミサナが後ろから声を掛けてきた。

「稲畠さん、本当にいいんですか? 私の考え過ぎかもしれないし……」
「君のその台詞も数回目だぞ。いいんだ、確かめに行く程度ならどうってことはないだろう。私にとって、君の父親は大切な友人の一人でもあるんだから」

 行き交う人の間を縫うようにして進んだ。

 不意に、控えめに引っ張られるような感覚を覚えた。

 肩越しに振り返ってみると、華奢なミサナが、慣れない人混みに埋もれて迷子になってしまうことへの不安を覚えたような顔で、私の背広の裾を遠慮がちに掴んでいた。


 私は、何故だか覚えのあるように、ぐらりと眩暈を覚えた。

          ◆◆◆

 十二歳の時、私――『イナハタ』は、父の転勤で母と一緒に故郷の地を離れた。

 当時、仲の良かった男の子が三人、女の子が一人いた。そのうちの一人が隼巳で、よく一緒にいて遊んだ幼馴染達だった。でも私は、彼ら全員に見送られる事はなかった。転校が決まるよりも前のある日、その女の子は前触れもなくいなくなってしまったのだ。