「駅ですっかり迷子になっちゃってさあ。乗り間違えて大変だった」

 初対面の日、大浜は妙な訛り口調でそう気軽に話しかけてきた。大学の保証人となってくれるらしいその男は、一見すると外人のような彫りの深い顔立ちをしていた。

「君がアラタ君だろ? 俺、大浜ナヅムってんだ」

 待ち合わせ場所の駅で手を差し伸べられ、アラタは困惑混じりに手を握り返した。
 その反応は、大浜にとって予想していた物と違ったらしい。格闘技の選手にも思える大柄な彼は、顎先の無精髭に手をやって「あれ?」と首を傾げた。

「お父さんから話は聞いてない? ほら、君のお父さんとは長い付き合いの大親友、大浜ナヅムだよ!」

 そう言われて、アラタはますます困ってしまった。父からは、「古い友人の『大浜』という男だ」としか聞かされていなかったからだ。

 そもそも、あちらこちらに流れて生活している父に、友人がいたという事実を先日の電話で初めて知った。長い付き合いの友人と自己紹介されても、大浜はどう見ても三十代後半ほどであるし、五十代半ばの父との関係性が想像出来ないでもいた。