母が病で倒れてからの治療費や病院代や葬儀の事を考えると、余分に貯金があるとも思えなかった。だからアラタは進学を断るべく、初めて自分から連絡を取った。

「大学へ行きなさい」

 そのまま就職しようかと思うんだけど、と提案を切り出した途端そう返された。「でも」と続けようとした言葉すらはねのけられてしまい、アラタはどうしたら良いのか分からず閉口した。

 でも、百万単位の金額なんだぞ?
 大学の資料にあった、眩暈を覚える金額の桁を思い出す。すると、こちらの案を全く受け付けないでいる父がこう続けてきた。

「母さんと約束した。俺は、お前を大学へ行かせる。大学を卒業したあと、どんな職に付くのか、何をするのかはお前の自由だ」

 初めて聞く話だった。しかし問い掛ける前に、電話はプツリと切れてしまった。

          ◆◆◆

 アラタが大浜という男に出会ったのは、たびたび父と大学について電話越しで話すようになってから、一ヶ月半が過ぎた頃の七月の事だった。