「煙草、吸うんだ」

 煙草を吸うのを見るのは初めてだった。教員免許を持っていて、土地を転々としながらも塾で生徒達と関わっていた事もあって、思わず意外でアラタはそう訊いた。
 すると父は、老いた横顔で遠くを見つめたまま「お前は未青年だ」と教師口調で言ってきた。まるで吸っている未成年に対して、注意するようニュアンスには一瞬ドキッとした。

「何言ってんだよ、俺はまだ十七だ。煙草なんか吸ってないよ」
「そうか」

 父は淡々と唇を動かせると、再び煙草をくわえて深く吸い込んだ。もう随分とそうしていなかったように、深く深く、味わうように吸う。

 自分が吸い慣れている煙草とは、全く違う匂いだった。やけにニコチンやタールが重そうな煙草だな、とぼんやり思いながら、アラタは火葬場に漂う独特の匂いを嗅いでいた。

 葬儀後、学校の寮生活に戻った。

 ほどよく勉強をして、気が向くままに遊ぶ。遊びが好きな男子生徒のグループの誘いにも、相変わらず参加した。それが楽しいのかつまらないのか、分からないままでも構わなかった。そうやって流されていれば、日々は呆気ないほど早々に過ぎ去ってくれる。