それは遠い昔に忘れてしまっていた父の笑顔だった。幼い日、そうやって自分に海の話を聞かせてくれていたことがあったのだと、アラタは今になってハッキリと思い出した。

 やや若い姿の父は、心からの言葉を送るように少しずつ言葉を紡いでいった。

「お前は不器用で、俺に似て少しじゃじゃ馬な所もある可愛い一人息子で……、俺は、そんなお前もひっくるめて、母さんと同じくらいにお前のことを愛しているんだよ」

 そう口にした彼が、少しやんちゃさの覗く苦笑を浮かべた。

「俺だって、叶うならお前の大学卒業を祝いたかったさ」

 直後、強い風が光をまとって巻き起こった。それは白く光り輝いて夢の景色を覆い始め、次第に五感は夢から離れて現実世界へと引き戻されていく。

 美しい島で、水牛に乗り、手綱を引く一人の男。

 アラタは、遠い昔に父が語った、故郷の風景を夢見ている――。

          ◆◆◆

 ふっと目が覚めた。到着を告げる機内アナウンスが聞こえて、寝起き直後の鈍い思考を動かしながら窓を覗き込んでみると、出発前とは随分印象の違う空港に着陸していた。