「ずっと、――ずっと伝えられなくて」

 そう切り出した声が、震えそうになる。

「そうしたらもう手が届かなくなって」

 涙を堪えるアラタの瞳に映る青い空は、遠い昔に父が語ってくれた風景だった。物心付いたばかりだった頃、もうくすんで色褪せるくらい古い記憶の中にその思い出はあった。

「気付いた時には、もう何もかもが遅かったんだ」

 伝えたい想いが言葉となって、洪水のように胸の中に押し寄せた。巨大な感情のうねりがアラタのその多くの言葉を呑み込み、今にも涙となってこぼれ落ちてしまいそうだった。

「人は言葉を持っているが、そうした優れた『伝える手段』を持っていたとしても、擦れ違ってしまうことだってある」

 前を向いたままの男が、教師のような口調でそう言ってきた。

 他にもたくさん尋ねたいことはあった。それなのにうまく言葉がまとまらなくて、震える喉をどうにか動かせた夢の中のアラタの口から、ようやく出たのは別の言葉だった。