よく見るとその男は、質素な色合いの麻で出来た甚平の上着のようなものを、白いシャツの上から着て、裾の一部分を布の紐で押さえていた。たくし上げられたズボンからは膝頭が覗き、そのサンダルの下で、水牛の足が海水をぱしゃりぱしゃりと鳴らしている。

「そんな厚地のズボンとスニーカーを履いていたら、すぐにズブ濡れになってしまうよ」

 なんだか不思議でじっと見てしまっていると、男がどこか面白そうに言った。
 そう指摘されたアラタは、彼の格好と見比べるように自分を見降ろした。この風景には不似合いな現代的ジーンズのズボンとスニーカーが、水牛の脇腹で揺れている。

「こうやって、牛を引くのが今の俺の役目だ」

 視線を前に戻した男が、先程の謝罪に対しての返答をした。その声はひどく聞き取りやすくて、どこか論じ、教え慣れているような気がした。

 この仕事にも誇りを持っているのだ。そんな思いが、彼の背中や落ち着いた声色から伝わってくるようだった。アラタは、なんだかそれが羨ましくて少し唇を尖らせる。