病気で入院したのをどうして教えてくれなかったんだ、だとか、母に会いに来いと一言くれれば良かったのに……という言葉は出てこなかった。自ら連絡を断っていたようなものだという自覚もあって、ただただ突然の「死」を受けとめるしかなかった。

 葬儀はひっそりと行われた。すぐに燃えてしまいそうな木箱の棺に収まった母は、姿を模した蝋人形のようだった。形のいい額、小さな瞳を縁取る睫毛。鼻先から唇まで、よくできた作り物のように思えたものの、その死に顔に自然と涙が込み上げた。

 顔を合わせるのは約一年ぶりだったが、相変わらず父は寡黙だった。久しぶりだという挨拶はなく、ただただ母の棺を向いたまま短く言葉を交わした。

「ちゃんとやれているか」
「ああ」
「大学には行きなさい」
「分かった」

 まだ上手く思考が働かなくて、ただただ淡々とそう相槌を打った。室内には、濃い線香の匂いがしていた。

 火葬場には、父と二人だけで足を運んだ。母が灰になるのを待つ間、建物の外の自動販売機でジュース缶を買っていると、父が煙草を一本口にくわえてマッチで火をつけた。