宮良は、船の中でそう言った。泣き疲れたアケミを背に、大浜は何も相槌を打てずにただ泣いた。彼にとって宮良は大切な幼馴染で、『近所の兄ちゃん』で、この先も一緒にバカみたいに笑っていて欲しくて、どうしようもなく幸せになって欲しい人だったからだ。

 どうして彼女を選び、助けるんだ、と出てきそうになる言葉は、大浜にとって自分の愚問でしかなかった。宮良という男は、決して人を見捨てられない人間なのだ。目に見えない不思議な縁が、二人を再開させて強く結び付けてしまったのだろうと思った。


『そうやってヤマト――日本本島にアケミを連れていったあと、あいつは長い時間をかけてどうにか斎藤家と松子達を納得させた。それから向こうの父親に許しをもらって、形上を婿養子とし、斎藤一族との絶縁を約束して自分の名字を変えたんだ』

 電話越しで長い話を終えた大浜は、名字を改めた事で父の上の名前が『斎藤』になったのだと教えた。そうやって彼は、誇りに思っていた『宮良』の性を手放したのだ。