兄のユウジが、母の松子を説得するという作戦は、こうして最悪の結末を迎えた。今年で十九歳になるアケミの腹には、彼との子がおり、逃げ回っている間に目立ち始めていたのだ。

 だから母と引き会わせる前に、兄は子の存在と二人の仲を認めてもらおうとした。しかし、汚らわしい子だと侮辱され、「おろせ」との言葉に絶望して投身自殺したのだ。

 近くに隠れて全てを見ていたアケミは、最愛の兄がこの世に絶望して命を断ったのを見て続こうとした。けれど、授かった事への喜びを感じていた彼との子供を、道連れに死ぬことは出来なくて、大きくなった腹を抱えて泣きながらその場から逃げ出した。

 島人たちが、放心状態の松子のもとに集まって「警察だ」「救急連絡ッ」と騒ぐ中、大浜は走り去るアケミに気付いて、よく分からない混乱のまま追い駆けたという。

 彼女は、ただひたすらに人気のない場所へと向かった。出たのは、いくつかの小舟が浮く小さな海岸沿いで、そこで煙草休憩を取っていた『宮良先生』を見つけたのだ。