それから少し過ぎたある年の夏、石垣島に一組のカップルが訪れた。

 カップルの旅行者は珍しくない。けれど怯えて寄り添い合う様子がちょっと目を引く二人組みで、まるでひっそりと隠れるみたいに地元にある小さな宿を一つ取った。

 それから数日経った頃、斎藤松子という婦人が石垣島にやってきた。

「私の子供達はどこにいるの!」

 松子は到着早々、船を降りた先で島の人間に向かってそう喚き散らした。

 実は数日前にやってきた若い男女のカップルは、斎藤アケミと斎藤ユウジといい、二人は松子の実子であり、愛しあった恋人同士でもあった。

 当時、大浜は二十歳だった。彼は同級生達と潮の引いた海岸でたむろしていて、ふと、背にしている崖側から緊迫した騒がしいやりとりが聞こえてきたという。

 なんだろうと振り返った彼らが目撃したのは、島の断崖から斎藤ユウジが飛び降りる姿だった。「あっ」と思った時には、鋭利な岩礁と波の中に消えてしまっていて、上には、罵倒を向ける相手を失って茫然とする斎藤松子の姿が残された。