触れるだけのキスをして、ピタリと大人しくなった彼女を見下ろす。

「少しは落ち着いた?」
「今のやばい素敵すぎるでしょもう一回やって」

 まだちっとも冷静さが戻らないようだ。アラタは「うーん」と考え、予定があるからなぁと小さく口の中で呟いてから彼女に目を戻した。

「また後で」

 そう言って、ナナカの前髪を撫で上げて額に親愛のキスを贈った。

「今はこれだけでいい?」
「私のアラタが素敵すぎるッ。『待ち焦らし』とか憧れのシチュエーション……!」

 大学ではしっかり者で通っているけれど、恋愛の小説や漫画が大好きなんだよなぁとアラタは思った。たまに何を言っているのか分からない時もあるけれど、自分の部屋で漫画を引っ張り出して「このシーンなんだけどッ」と熱く語る彼女も可愛いのだ。

 俺も相当、彼女が好きなんだなぁと今更のように実感した。恋人関係を一旦保留しようと話し合った際、議論の一つに上がっていた同棲についても真面目に考えてみよう。