「朝から誘っているのか?」

 そのまま、彼女がツボだとか言っていた台詞と、不敵な笑みを浮かべて見せた。

 ナナカが、勢いよく上から退いて距離を取った。真っ赤な顔で「S系が似合うイケメン面で、その台詞と表情されると心臓もたないからやめてって言ってるでしょおおおお!?」と叫んでくるのを見て、アラタはまたしても見ていた『水牛の夢』の事を少し忘れられた。

 これで、しばらくはこっちを意識して上に乗って来ないだろう。

 そう思った時、ふと、寂しさで胸のあたりがきゅっと空くのを感じた。もし彼女が来なくなる日がきたとしたら、としばらく考えてしまっていた。


 それから数日、目覚めが悪い日が続いた。
 半ば睡眠不足で食も細かったアラタは、起こされる前に起床するという久しぶりの目覚めで、こちらを覗き込んでいるナナカと目が合った。

 彼女に「大丈夫?」と心配され、平気だと答えて数日振りにカレンダーを見た。そこで、いつの間にか七月が終わって、八月に突入したことを知ったのだった。
 
          ◆◆◆

 それからというのも、まだ残っていたぼんやりとした調子を拭い捨てて、アラタは真剣に考え過ごした。