「ショックなのは分かる。けどな、大学を休むのは駄目だ。お前は大学を卒業しなくちゃいけない。お前の親父さんと、そう約束しただろう?」

 すっかり何もなくなった父のアパートを引き払ったその日、旅立つ前に大浜はアラタにそう言った。亡くなった父は『俺が死んだらアラタに』と、大学を卒業するまで充分すぎるほどのお金も遺していた。

 空港に向かう彼と、どこで別れたかはよく覚えていない。父に関するものが色々と入っているであろう大きな旅行と、父の遺骨を大事そうに抱えた大浜の、少しだけ肩が落ちた大きな後ろ姿だけが、アラタの網膜には焼き付いていた。

 久しぶりに帰った自分のアパートは、開けると少しカビ臭い匂いが鼻をついた。積もった埃は、しばらく人の出入りがなかったことを伝えてくる。

 父が亡くなってから、アラタの時間感覚も曖昧になっていた。薄暗い室内の電気をつけたところで、記憶を辿るように、しばらくぼんやりと部屋の中央に佇んだ。