帰りたかったとは、一体、どこへ?

 そう思った言葉は出て来なかった。五年前から父の内臓が壊れ始めていたなんて、アラタには信じられなかった。大学受験のやりとりをしていた時も、入学式にきた時もそんな気配なんて感じなかったし、父は何も教えてくれなかった。

 大学の入学届けがきたタイミングは体調が悪く、アラタを迎え入れられる状態ではなかった。だから郵送で済ませた父は、大浜に『祝ってやってくれ』とも頼んでいた。入学式の後もたびたび入退院を繰り返し、連絡を取れる状態ではなかったのだ、と。

 アラタは打ちひしがれ、ついに心がボキリと音を立てて折れた。

 諦めるなと、過去の気丈な自分が声を上げている。でもそんな気力はとうに底を尽き、この声が聞こえるかと、未練が悲痛な叫びを上げて噎び泣くかのように胸が痛む。

 うまく思考が働かない。初七日まで大浜と色々と必要な場所へ足を運びながらも、ただ一つ残された写真の着流しの父の姿ばかりが、何度も浮かんでは消えていった。遺影の父はやや若く、静かな眼差しをした落ち着いた顔は、まるで知らない人のようにも思えた。