「県立病院の者ですが……」

 電話越しでそう前置きした医者は、気遣うような声で父の死亡を話し聞かせた。
 アラタは、彼が一体何を言っているのかすぐには理解出来なかった。「癌」「お辛いでしょうが」「お父様も頑張られて」……次々に告げられた様々な言葉が、頭の中でぐるぐると渦を巻いた。

 父の死に顔は、まるで眠っているかのように穏やかだった。揺り起せば今にも「なんだ」と淡々とした、いつもの愛想もない挨拶代りの言葉を返してきそうだった。

 母と同様、父の葬儀もひっそりと行われた。生前に父は「自分が死んだら彼を呼んで欲しい」と病院側に頼んでいたようで、飛んで駆けつけた大浜が、アラタの代わりに全てを引き受けた。

「お前の親父さんの遺骨は、あいつと約束した通り、お前の母親を入れた場所と同じところに持って行く」

 大浜は疲れ切り、沈痛した面持ちでそう述べた。

「お前はまだ若いし、心の整理もつかないと思う……。俺が、責任を持って遺骨を納めるよ。こいつも、ずっと帰りたかったと思うから」