交際していた頃から、彼女には例の夢についてたびたび相談していた。綺麗な白い足を、惜しみなく短パンから覗かせている彼女に、アラタは静かに首を横に振って見せた。

「そんな画才はないさ」

 だって絵を描いたことはない、そう続けようとしたアラタは、ふと、自分が覚えている記憶に小さな疑念を覚えた。

 美術の授業と同じように、幼稚園でも絵を描いたりするものではないだろうか。幼い子供がクレヨンで絵を描く場面については、映画やドラマでもよく見掛ける光景だ。

 正しいと思っていた自分の記憶が、唐突にそうではなかったと突き付けられたような恐怖を覚えた。順を追って並べようとした中学生以前の記憶が、写真の切れ端ばかりを残して、真っ暗な記憶の海に散らばっているような気がする。

 家族との思い出が何もないなんて、あるはずがない。だって一人で留守番が長く出来なかった時代もあって、そして何かをして両親の帰りを待っていた頃もあったはずだ。