「ん? どうした。悪酔いでもしたか?」

 大浜はそう言って笑った。アラタはベッドに横たわったまま、ぼんやりと彼を見つめていた。まだ脳裏には夢の残像がこびりついていて、眠りへと引き込まれそうだった。

「海の匂いがする」

 そう呟いた自分の声が、頭の中にぼんやりとこだまするのを感じた。大浜が海をまとって引き連れているのだと、アラタにはそう思えた。

 大浜は、ちょっとだけ意外そうな目をした。それから否定も肯定もせず「やれやれ」と言って視線をそらし、「飲み過ぎたみたいだな」と海の名残がする、どこか懐かしいほどに優しい訛り口調でポツリと呟いた。

「お前に飲ませたなんてバレたら、俺がミヤラにぶん殴られちまうよ」

 顔を上げた大浜がちょっと困ったように、それでいて泣きそうな顔で笑った。その口元から、彼の肌とは対照的な白い歯が見えた。

 ミヤラって、誰?

 口の中で疑問を呟いたあと、アラタは再び眠りの中へと落ちていった。

         ◆◆◆

 高校を卒業したアラタは、近くにアパートを借りて大学生活が始まった。

 アパートは建築年数が浅い物で、完全フローリングのワンルームだ。はじめから家具がついているタイプの部屋で、小さな収納棚はすぐに私物でいっぱいになった。