「あ、煙草は大丈夫か?」

 煙草を一本取り出した彼が、ジッポライターを用意したところで気付いたように目を向けてきた。アラタは、そんな事かと思って「別に構わない」という意思表示をした。
 大浜は「ふうん」と呟いて火をつける。一口、二口と吹かせると、テーブルに頬杖をついて、どこか興味深そうにじっとアラタの顔を見つめた。

「なんですか。僕の顔に、何か?」
「お前、そうやって素の感じでいると、随分あいつに似てんなぁ。今の顔をチラッと顰めた時の表情とか、とくに目元。若い頃に見たあいつのまんまだ」

 眉を顰めたアラタに、大浜が「あいつが俺より年下になったみたいで、変な感じ」と言って、ちょっと困ったように笑った。

          ◆◆◆

 翌年、アラタは東京の大学を受験し、第一志望校の合格を勝ち取った。電話で父に報告すると、やっぱり淡々とした口調で「おめでとう」と返された。

「入学はスタートラインだ、卒業出来るよう頑張りなさい。お前がこちらまで来る時間はないだろうから、書類がきたら一旦こっちの住所に郵送しなさい」