「お前の親父さんはさ、正義感が強くて熱血バカで、そのうえすぐにプッツンする奴だった。よく俺や近所の悪ガキ連中を、問答無用でまとめて海に放り投げていたもんだ」
「そんなことがあったんですか?」
「しょっちゅうだったよ。まぁ地元じゃ面倒見が良くて頼れる『近所の兄ちゃん』というか、それでいて結構頑固なところもあったからなぁ」

 自分には長く暮らした地や、帰るべき故郷と呼べる場所もないせいだろうか。地元、という言葉に何故だか寂しさを覚えた。

 これまで聞かされた事もない父の故郷の話をしていた大浜が、ふと思い出したように店内を見渡した。目が合った男性店員が食器を下げにきたついでに尋ねる。

「ここ、煙草は大丈夫っすかね?」
「はい。今の時間は大丈夫ですよ」
「なるほど、時間によって変わるわけね」

 でもまぁ店内喫煙可能なのは助かるよ、と大浜は打ち解けた口調で言った。やっぱり独特の訛りが入っていて、それでも不思議と温かい印象がある。続けて「皿、ありがとう」「メシ美味かったよ」と伝えられた男性店員も、ずっとニコニコしていた。