見渡す限り、周囲一面を低い海が覆っている。どこまでも広がる海岸線に、岩肌や砂地を透明に浮かび上がらせて、穏やかな波がきらきらと波打つ。

 ひどく透明度の高い海だ。

 ブルー、グリーン、翡翠のような……美しく澄んだすべての青を滲ませるエメラルドの輝きを放ちながら、波の彼方ではっきりとした色彩の青空が眩しく広がっている。
 それもまた、目を突く明るさではない。一つの絵画の中にすっぽり紛れ込んでしまったかのように、その光景は美しくもはっきりと輪郭を描いてそこにあった。

 これは夢だ。いつしか見る幻だ。

 海の匂いがする風は、ゆったりと流れている。時間の感覚がひどく曖昧で、絵の中に収まった自分が、どこまでも同じ景色の中に揺られているような気さえした。

 水面を揺らしながら、二頭の水牛がゆっくりと歩いていくのだ。

 彼は今、その背にまたがっていた。下から上がる澄んだ水音が、耳に心地いい。

 どちらも巨大な水牛だ。広い背中に盛り上がった筋肉が、規則正しく動いて歩む足取りはどっしりと安定している。彼が乗る水牛のやや先を、別の立派な水牛が足元の低い海をキラキラと蹴散らして進んでいて、その背には揺れる男の後ろ姿があった。