好きだ、好きだと僕は泣いた

 何をそんな動揺しているのだ。自分は恵と交わした約束を守り、この絵を秋山伝いで彼女に渡すだけだろうに……彼方は、心の中で自分にそう言い聞かせた。


――『時間はかかるかもしれない、でもきっと良くなる』


 ますます息苦しさを感じた時、不意に、昨日の小野の言葉が脳裏に再生された。それはあなたの願望だろう、希望論じゃないか……そう感じた気持ちがまで蘇った彼方は、ぐっと胸が詰まって大きく息を吸い込むと――止まっていた手を動かして包んだ絵を取った。

 一階に降りると、出社準備を整えた父と母がいた。

「あら、彼方。もう体調は大丈夫そう?」
「うん。ちっとも平気だ」
「その大きな荷物は何? この前から描いていた絵かしら」
「今日、先生に渡す」

 彼方は詳細を言わなかった。尋ねてきた母の向こうで、父が「そういえば顧問の小野先生が、今年も担任だったな」と渡す相手を誤解してそう口にしていた。

 いつもの調子で三人の朝食が始まった。もっぱら母がきつい印象のある声で仕事に関連する事を話し、父が適当に相槌を打って興味のある話題だけ尋ね返す。テレビからは、音量が小さくされた土曜日の朝のニュース番組が流れていた。