好きだ、好きだと僕は泣いた

『景色が――人が、隠れてかすんで、よく見えないから』


 つい先程、自分の口から囁かれこぼれ落ちた言葉だった。だから多分、雨は好きじゃないのだと、そんな自分自身の答えが信じられないでいる。

 胸の中がひどくざわついた。一呼吸ずつさえ重苦しくなり、足元が沈んでいくような錯覚に襲われて心臓がドクドクした。訳も分からず焦燥感に襲われて、背筋が冷たくなる。

 歩きながら無理やり背負った鞄の感触や、急くように履き換えた靴の感触もおぼろげだった。彼方は傘を差してすぐ、苦しさから逃れるようにただひたすら足早に歩き続けた。少しの段差で足がもつれそうになり、何度か傘を落としたせいで頭から雨に濡れてしまう。

 またしても傘を落としてしまった時、彼方は一度足を止めた。深呼吸をしながら、手に持った傘の濡れた冷たさと、頭から頬につたっていく雨水の生温かさを感じていた。それを深く噛み締め考えたところで、自分が雨空の下に立っている強い実感が込み上げた。