好きだ、好きだと僕は泣いた

「あいつ本とか持ってるから、当然だって」
「むぅ……。やっぱり本とかノートとか濡れるから? だから好きじゃないのか?」

 机に座っている少年は、諦めきれないように再び訊く。

 また、教室内に湿った静けさが広がり、窓を叩く雨の音ばかりが続いた。他に話す話題もなくなってしまっていた教室の生徒達の視線が、机の上の男子生徒と彼方に集まる。

 彼方は、いつものように真っ直ぐ背筋を伸ばして、ただ窓の方を見つめていた。静けさが広がるような、透き通る穏やかさとも悲しみともとれない目と表情だった。
 ふっ、と彼方の唇が僅かに開閉した。

 声が出ているのかいなのか分からない。よく聞こえなくて、机に腰かけている男子生徒が「なんて言ったんだ?」ときょとんと口にして首を捻る。

 その直後、彼方はすくっと立ち上がっていた。やや乱暴な手付きで鞄を取ると、困惑する生徒達が背中から声を掛けてくるのも構わず、そのまま足早に歩き出して教室を出た。