好きだ、好きだと僕は泣いた

 この後とくに用があるわけでもないのに、彼方は壁の時計を見やった。動いている秒針を確認して秋山に目を戻したはずなのに、今が何時何分なのかも分からなかった。

「じゃあ、これで失礼します」

 彼方は立ち上がると、頭を軽く下げてから歩き出した。足元に力が入らなかったものの、どうにかゆっくりと前へ進んだ。

 後ろから秋山の別れ言葉が聞こえたものの、答えてきたその声は掠れきっていて、窓を叩き続けている鈍い雨の音にかき消されてしまっていた。

          ◆◆◆

 美術室から戻ってみると、教室にはまだ十人ほどの生徒達が残っていた。三つほどのグループに別れ、他愛ない会話を繰り返しては、時々水を打ったように静かになる事を繰り返している。その時は決まって、彼らは窓の外に広がる夜のような雨の景色を見つめていた。

 彼方が入って来た事に気付いて、数人が目を向けた。しかし、その視線もすぐ窓へと戻る。

「すごい雨だねぇ」
「あたし、お母さんが車で迎えにきてくれるから、アミちゃん達も送ってくよ」
「本当に!? それすごく助かる、ありがとうッ」

 残っていた女子生徒三人が、そう切り出して話を再会した。