好きだ、好きだと僕は泣いた

 授業の合間か、もしくは終わった後に一時顔を出しに行っていたのだろう。だから廊下ですれ違う事も少なかったのかもしれない。

 そう考えながら、ふと、とても静かだった二組側の廊下辺りの事を思い出した。

「他の生徒達は知っているんですか?」
「少なからず、僕のクラスの子達は知っているよ」

 そう言った秋山が、どうにか平静を装いながら肩をすくめるのを、彼方は室内の風景が反射しているガラス越しに見つめていた。

 しばらく、どちらも言葉がないまま時間が過ぎていった。ガラス越しに目を合わせる秋山は、考えの読めない三十歳の真面目な顔で彼方を見据えている。

 雨の音がする。ずっと変わらず、馬鹿みたいに窓を容赦なく叩き続けていた。

 その様子をただただ眺めていた彼方は、ようやく、ぼんやりとした様子で視線を外した。何かを考えなければとするように顔を下へ向けて、ひどく感覚が鈍いような気がする己の軟弱な手を見た。

「…………ああ、そうだ。僕、彼女に渡したい物があったんだった」

 思い出すように言葉を紡いで、いつものようにいかない思考を動かすように目を細めた。