「君、さっきやって来た小野先生に、僕がなんと言われたか知っているかい」
「小野先生? ああ、確か五組の担任?」

 そう言いながら、思い出すような表情をする。

「私、二組だしよく分からないけど。笑顔が素敵な先生よね。目尻のしわの感じが、なんだか温かくて好きだわ」

 選択授業の教科担当だから、直接関わった事はないという。

 そんな個人的な感想を聞いた彼方は、疲れたように吐息を吐き出した。

「僕はさっき、『最近二組の宇津見さんと仲がいいみたいだね』、なんて言われたんだぞ」
「うん、私もそう思うよ? 話し掛けたら意外と面白いし、それにもう私達って友達でしょ?」

 にしししし、と恵が個性的な笑みを浮かべた。

 彼方は、そんなんじゃないだろうと思って、仏頂面で見つめ返していた。出会った当初からずっと思っているのだけれど、女の子の笑い方としては少々珍しい気がする。

「そもそも僕は、そんなものには興味がない。一人静かにさせてくれる場所を提供してくれると思って美術部にいるのに、君がいたら、ちっともそうじゃなくなる」