好きだ、好きだと僕は泣いた

「ある芸術家が、『我々はその絵画の中に、過ぎ去ってしまった時を見い出す事が出来る』と本に書いていた。一秒だって同じ時は訪れないし、空だって同じ顔は見せない。その時間を、この四角い紙の中に切り取って収める。だから素晴らしい宝なのだと、彼は言っていた」

 女の子が、思案気に目を落とした。ぽつりと口の中で「……その時を………残せる……」と呟く声が聞こえた。

 もう話は以上だろう。しばらくの沈黙を聞いた彼方は、手に持っていた本をもとの場所にしまった。


「――とても、良いお話ね」


 不意に、問いかけるような口調でそう声を掛けられた。

 振り返ってみると、彼女が少し悲しそうな笑みを浮かべて床を見つめていた。

「キレイな時を、そのまま切り取って集められたら素敵だろうけど、きっと一番それを望んでいても無理なんでしょうね。私が見る風景は、こんなにきらきらしていないもの……」
「いつも俯いてばかりじゃ、見えるはずもないだろう。君がきらきらしているはずがないと思ってしまえば、君の見ている世界は、すぐに色褪せてしまうに決まってる」

 彼方がぶっきらぼうに言葉を返したら、女の子が俯きがちに視線を上げてきた。