好きだ、好きだと僕は泣いた

 興味のない情報(こと)は、古い記憶の倉庫にしまって忘れる。幼い頃しばらく両親のやりあう声を聞かされ、いつもそうやって全部胸の奥底にしまい込むようになった。

 そんな自分の忘れかけていた古い記憶の中に、九月の二週目になってから『うつみめぐみ』というフルネームがぼんやりと残されているのに気付いた。小学校の机に貼られていた名前で、そこにはいつも休みがちだった、痩せ細った小さな女の子が俯いて座っていた。

 小学校の頃、二回だけ同じクラスになった子で、彼女は途中からいなくなった。通っている大きな病院の近くに引っ越したらしい、という噂をチラリと耳にした。

 そうだとしたのなら、恐らくは。

 彼方はぎゅっと唇を引き結び、それから扉を控えめにノックして開いた。

          ◆◆◆

 まだ小学生だった頃、入学当初からあまり学校に来ない女の子がいた。

 学校へやって来ても、見知らぬ子供達の中に放り込まれたみたいに緊張していた。話しかけられるとビクリとして、恐る恐る言葉を返すような女の子だった。どこか違和感のある真っ黒い頭もあって、何もせず座ったままでいる姿は教室の中で浮いていた。