好きだ、好きだと僕は泣いた

 しばらく、担任の小野の口から言葉は出て来なかった。どこか躊躇うようにその表情が曇る。不審に思ったクラスメイト達が振り返り、彼らは一斉にそれぞれ茶化す目をやめた。

 彼らの視線の先には、ただ一人背筋を伸ばして、行儀よく椅子に腰かけている彼方の姿があった。彼方は「嗚呼」と言うように顔から力を抜いて、ただただ小野を見つめている。その表情はあまりにも無垢で、諦めで……同級生達はよく分からないまま心配な空気を漂わせた。

 しばらくの間を置いた小野が、調子を戻すように「おっほん」とわざとらしい咳払いをした。

「少し話があるから、放課後、美術室においで」

 ぎこちない笑みを浮かべてそう言うと、そのまま『帰りの会』を終えて教室を出て行った。

 担任の呼び出しというよりは、美術部顧問としての要件なのだろう。そう解釈したらしい生徒達が、帰り支度にとりかかりながら放課後について話し始めた。彼方は教壇をぼんやりと見つめたまま、すでに嫌ではなくなっている教室の風景も目に留めて、そっと目を細める。


「ああ、やっぱりそうなのか」


 思っていた以上に、ひどく落胆したような声が出た。