ふと、二組にいるらしい恵を思い出した。会いに行ってみようか、なんて、らしくない事を考えた。我に返って頭からそれを追い払ったものの、作品のモデルであるせいか、気付くと彼女と過ごした日々を思い返したり、『今何をしているんだろう』と想像したりした。

 その日、作品の構図が彼方の中でようやく固まった。学校の帰りに新しい材料と、いつもは買わない高価な画用紙を購入した。家に帰るとすぐに描き出しにかかり、自分が知っている彼女を描こうと、いつも以上に丁寧に時間をかけて下絵の作業を進めた。

 九月の第一週目は、そうやって過ぎていった。第二週目から天気が曇りがちになり、時々雨も降るようになった。

 その頃から、彼方の顔色も曇り始めた。唇を引き結び、正面を見据えて押し黙っている事が増えた。中間テストが終わるまではと部活動の休みを伝えたきり、担任兼美術部顧問の尾のはどこかよそよそしく、ここ数日は廊下でも写真部顧問の秋山さえ見かけていない。