何も言わないまま差し出された恵が、そこに目を落とした。そっと手を伸ばして受け取ると、やっぱり噛み締めるみたいに絵を見つめた。それから、空気を変えるようにこう言ってきた。
「そういえば、部室の件はごめんね。まだ放送部の人達が使っていて、夏休みいっぱいまではこっちを使わせてもらう事になるかも。あの、その、九月にはどうにかなりそうなんだけど――」
「ここにいればいい」
彼女の話の途中で、彼方はそう切り出していた。
恵の反応を見ていられなくて、彼女から目をそらしてスケッチブックを立て掛けた。それから、すぐに着席もしなまま意味もなく窓の向こうを見やった。
「僕一人には広すぎるし、机六個分だって全然気にならないし…………」
窓の向こうで、わぁっと声援が上がって一度言葉が途切れた。その声援に耳を傾けるように、恵が窓の向こうに視線を向ける。
しばらくして外の声が小さくなった頃、彼は短く息を吸い込んだ。
「――つまり君は、そこにいればいいんだと思う」
挨拶初日から入り浸っていたんだ。好きに使えばいい、そう口にしながら青い夏の空を眺めた。開いた窓から、夏の熱気を乗せた風が舞い込んできて、二人の髪と制服をはためかせていった。
「そういえば、部室の件はごめんね。まだ放送部の人達が使っていて、夏休みいっぱいまではこっちを使わせてもらう事になるかも。あの、その、九月にはどうにかなりそうなんだけど――」
「ここにいればいい」
彼女の話の途中で、彼方はそう切り出していた。
恵の反応を見ていられなくて、彼女から目をそらしてスケッチブックを立て掛けた。それから、すぐに着席もしなまま意味もなく窓の向こうを見やった。
「僕一人には広すぎるし、机六個分だって全然気にならないし…………」
窓の向こうで、わぁっと声援が上がって一度言葉が途切れた。その声援に耳を傾けるように、恵が窓の向こうに視線を向ける。
しばらくして外の声が小さくなった頃、彼は短く息を吸い込んだ。
「――つまり君は、そこにいればいいんだと思う」
挨拶初日から入り浸っていたんだ。好きに使えばいい、そう口にしながら青い夏の空を眺めた。開いた窓から、夏の熱気を乗せた風が舞い込んできて、二人の髪と制服をはためかせていった。