「……それもそうね」

 そのまま大人びた感じで独り言を口にし、彼女が目を上げた。

「分かったわ、写真部としての私の腕の見せどころね。じゃあ期限を決めましょう。来月の中間テストの最後の日までに、お互いの作品を仕上げるっていうのは、どう?」
「まぁそうだね。ただやるというのも面白くない、期限を設ける件は賛成だ」
「私も、その方がやり甲斐があって面白いのよね」

 恵が、見知らぬ女子生徒のような可愛らしい笑みを浮かべた。勝負というよりただの作品交換というだけだ。それなのに、まるで約束があるのが嬉しいみたいだった。
 その光景を見つめていた彼方は、思わずそっと目を細めた。ああ、彼女を描きたいなと、そんな事を考えて――時間を告げる校内放送を聞いてハッとした。

「あ、もうこんな時間なんだ」

 彼女が、ふっと時計の方を見上げてそう言った。

 同じように時計を見上げる素振りをした彼方は、ろくに時刻も見ないまま恵が持っていたスケッチブックを静かに取り上げた。丁寧にそこから一枚だけを切り取って、振り返った彼女に『宇津見恵』が描かれた絵を差し出した。