その途中で、二人の顧問が顔を覗かせた。彼女が先に職員室に持っていったらしい土産の礼を述べると、職員会議があるとの事ですぐに出ていってしまう。

 それを恵が、かなり残念そうに見送った。

「あああああもうッ、これから色々と土産話をしようと思っていたのに!」
「君、喋るよりも、数日ぶりに写真部の活動でもしてきたらどうだろうか」

 彼方はそう提案した。でも何故だか、もう少しここにいてくれればいいのにと矛盾した事を思ってしまってもいた。

 すると、恵が「そういえば」と言ってこちらに顔を向けてきた。

「私の絵、出来た?」
「ああ、そういえば君は、あの日は早く帰っていたな」

 彼方は、矛盾した気持ちを忘れるように口にすると、視線をそらしてぼんやりと思い返した。先日は用事があると言って、その少し後に彼女は美術室を出ていったのである。

 そう思い出して立ち上がったら、恵が目を輝かせて後をついてきた。

「可憐な花のような可愛さで、ちゃんと描いてくれた?」
「残念ながら、ちゃんとありのまま描いたよ。僕は、絵の中でも嘘はつかない性格なんだ」

 後ろから尋ねてくる彼女に、彼方は抑揚なく答えてスケッチブックを手に取った。