「まぁあなたが言うくらいだから、余計に焼けていないのは確かなんでしょうね。実は最近ちょっと美を意識しているのよ」

 そこでニヤリと笑って彼方を見た。相変わらず少年みたいな笑い方だ。そんな事を思いながら「興味ないよ」と答えて、新しく口に運んだ菓子をしばらく味わった。

「これ、結構美味い」
「あら、珍しく捻くれていない感想を聞いたわ。というより私の話よりも、お菓子に興味があるみたい」

 茶化すように声を掛けた恵が、わざと呆れた表情を浮かべてみせた。しかし、特に反論も相槌もないまま黙々と同じ甘い菓子を食べ進める様子彼方に、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「……意外だったわ、これは新しい情報ね。彼方君は食べ物にも興味を持っている、と」
「食べる事は大切だと思う」
「え。まぁ、その、確かにもっともらしい言い分だけどさ…………」

 それから恵は、しばらく菓子を食べる事に専念して静かになった。互いの胃が満たされた頃にまた一方的に話し出されて、彼方は「そう」「ふうん」と答えながら、持ってきたペットボトルのお茶を時々口にした。