そのたび彼方は「僕を撮っても得はないぞ」と言ったが、恵は「自然体が一番なの」と答えて、自慢するようにカメラの中に収められている写真を見せてきた。そこには廊下ですれ違った生徒の驚いた顔や、休憩中じゃれあう生徒達の写真もあった。

 その際、彼方は三枚中一枚に自分が写っている事実を知った。思わず眉を顰めて「おいコラ」と睨みつけてやったら、彼女はすかさずこう言っていた。

『だって、データがいっぱいになったら、古い方からパソコンに入れて保存していくのよ? 最近毎日のように撮っているあなたの写真が多くあるのは、当たり前じゃない』

 いやだから、毎日のように僕を沢山取るなと言っているんだが。

 すっかり効果のない台詞だと分かってから、彼方は言い返すだけ無駄だとも諦めていた。手渡されたはずの袋が再び彼女の手に渡り、彼女専用作業台の上いっぱいに土産の菓子が置かれる様子を眺める。

 彼方は椅子を引っ張り寄せ、どこかの土産品店で見るような菓子を恵と一緒に食べた。黙々と菓子を噛み続ける向かいで、彼女がここ数日間分の話を続けながら、どんどん口に菓子を放り込んでいく。